特別支援学校や図書館などに電子図書の寄贈を行い、障がいのある子どもたちへの読書支援を進める伊藤忠記念財団は、百人一首を電子化する取り組みを行っている。都立高校と連携し、歌の情景を漫画部や美術部に所属する生徒らに描いてもらう。電子化した百人一首は、次世代育成として、全国約1000の特別支援学校などに寄贈する。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
伊藤忠記念財団は、マルチメディアDAISY規格と言われる電子図書を制作している。パソコンやアイパッドなどの端末に取り入れることで、文字が拡大したり、読み上げたりする機能がついている。何らかの障がいがあり、文字を読みづらい人でも、読書を楽しむことができる。
今回は、その仕組みを百人一首に応用した。配布先の都立墨東特別支援学校から、財団事務局へ百人一首の電子化作品を希望する声が届いたことが始まりだ。音声は、墨東特別支援学校の生徒、教職員や同校が指導に当たる小児がんなどで入院している院内学級の生徒が担当することになった。更に歌をより理解できる作品作りを目指し、都立高校へも協力を求めた。
百人一首企画にかかわっている都立小川高等学校司書の千田つばさ氏は、中高生の読書の大切さについて「まとまった知識を得ることができるもの」と考えている。「マルチメディアDAISYを作る側になって初めて、生徒たちは障がいを持っている人は読書が困難だと理解するだろうと思った」と参加を決めた理由を話す。
まずは、小川高校の漫画研究文芸部と美術部に協力を呼び掛けた。生徒たちは協力してくれることになったが、人数は10人程度しかおらず、100枚の絵札をつくるには人手不足。そこで、千田氏は自作のチラシを配り、都立高校図書館の研究会を通して他校に呼びかけた。その結果、都内の9校が応じてくれて、合計10校で100枚の絵札を手掛けることになった。
それぞれの高校の漫画部・美術部・デザイン部などの生徒が、自由に情景を描くことにした。生徒たちは、歌の意味について調べるが、色づかいや雰囲気は、生徒個人の感性に任せている。小川高校の漫画研究文芸部部長の中村さん(2年)は、絵を通して、「優しさを伝えたい」と言う。
生徒たちの多くは祖父母の家に遊びにいったときに、百人一首を手に取ったという。おそらく、祖父母と遊んだ思い出から、「優しさ」が連想されたのではないだろうか。
漫画研究文芸部の顧問を務める中田均主幹教諭は、今回の企画に参加したことで、「全員が不自由なく暮らせているわけではないということを、生徒たちが知るきっかけになればうれしい」と話す。
中田氏は同部に所属する生徒について、「優しい子が多い」とし、「きっかけさえあれば、視野が広がっていく。今回はその大きなチャンスと考えている。お話があった時から、すぐに協力したいと考えた」という。
百人一首の電子版は既にあるが、高校生と協同して制作したものは日本初だ。また、この百人一首は障がいの有無にかかわらず誰でも利用することができるのも特徴の一つ。
「楽しく日本文化に触れられる作品になれば。障がいの有無に関わらず、外国籍の子どもや小児がんの治療で入院中の子どもなど、必要とする方に広く使ってほしい」(伊藤忠記念財団矢部氏)
2017年3月の完成を目指し、5月から全国1000の特別支援学校、公共図書館、医療機関などに寄贈する予定だ。
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