四国遍路は2015年4月に日本遺産に登録されたことで、世界遺産への登録を目指す動きが活発化している。そんな中、世界遺産登録に対して最もセンシティブであろう八十八箇所霊場の住職へお話を伺うことができた。今現在の四国遍路の状況と世界遺産登録に関してどのような思いを抱いているのか。高知県第三十七番札所である藤井山 五智院 岩本寺・副住職の窪博正さんに話を聞いた。(武蔵大学松本ゼミ支局=中澤 健太郎・武蔵大学社会学部メディア社会学科1年)
■形を変える「お遍路」
四国遍路は、四国八十八カ所の霊場を巡拝するもの。その距離は、1400㎞に及ぶ。現在、バスツアーやマイカーによる遍路がほとんどを占め、歩き遍路の割合が減少していっている。そんな中、歩き遍路を体験できるバスツアー企画というものが出てきてもいる。
霊場の20㎞手前までバスで行き、そこから霊場まで巡拝するものだ。中には、遍路道のほとんどをバスで巡り、景色の良いスポットや珍しい場所だけを歩くツアーもある。
古くからの遍路の形が失われていきつつある現状を、霊場の住職はどう見ているのか。聞いてみたところ、意外にも寛容的な答えが返ってきた。
「どんな形であれ、お遍路をきっかけに岩本寺のご本尊様を拝んでいただけることは、十分ありがたい事です。そういう意味では個人的には、いろいろな遍路の形があってもいいと思っています」と窪さん。
「仏さまは多種多様に形を変えて我々のもとに現れご説法してくださるし、我々の中には仏様の心が必ず備わっているという大前提が大乗経典にある。仏さまをもっと身近に感じられる場所であればいい。出会えたのが御大師様であったらそれは凄くありがたいことですよね」
■世界遺産登録運動への思い
世界遺産登録に向けた活動が活発になってきていることに対して伺うと、「個人的には生きている信仰の場所だから遺産って言葉は引っかかるところはある。けれど、それぐらいですかね。霊場をつなぐ道は公的な保全が不可欠であり、また世界遺産登録によってより多くの方に参拝していただけることにつながれば」と答えた。
しかしやはり八十八箇所で温度差があるようで、八十八箇所霊場会で一つ懸念している点として、世界遺産化による「動きにくさ」を挙げた。
「実際に生活をしてないところであればいいんでしょうけど、実際ほとんどのお寺がそこで生活をしながら御堂を守っていますから。傷んだ木造建築や木をどうするにも県や市の許可をもらわなきゃいけなくなる。高知は潮風の問題がありますから。そこが耐えられないと他の霊場の方々は言っていたりしますね」
■お遍路を支える地域住民
四国遍路の世界遺産登録へ向け、地域住民との協力も考えなければならない。現在県が推奨している遍路道の中には民家の裏庭を通るものもある。「お遍路さんを嫌がる住民も少なくない」と明かす。
しかし、遍路の文化は、地域住民の協力なくしては成り立たない。四国遍路文化を支えてきた大切な要素に、地域住民がお遍路さんへ施しをする「お接待」がある。
お接待の要素の欠落に繋がることは避けなければならず、「地域の方に愛されるお遍路であってほしいですね」と語った。
■世界遺産登録へ三者協働を
「四国八十八箇所霊場と遍路道」世界遺産登録推進協議会などは、2020年までに、「四国遍路」を世界文化遺産への登録を目指し、活動している。
寺側の人間は宗教性を報じていく勤めがあり、行政側は四国遍路文化の登録を目指している。そこは互いに歩み寄り、譲り合い、宗教と文化との間を折衷していかなければならない。そして地域住民の理解と協力も欠かせない。
最後に、「三者が協力し合って同じ方向へ進むことで、初めて世界遺産登録へと歩みを進められるのではないでしょうか」と窪さんは世界遺産登録についての話を締めた。
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