ノースダコタ州にあるネイティブ アメリカンのスー族の保留地であるスタンディングロックで、石油パイプラインの建設を巡り、政府とスーインディアンたちが対立している。この建設には、世界38の銀行が投資しており、日本の銀行は、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行が投資している。建設しているパイプラインの距離は、ノースダコタ州からイリノイ州までの2000キロ弱に及ぶ。建設が強行されていることに対し、スーインディアンは、「飲料水の水源であるミズーリ川が汚染されてしまう」と訴える。現地から報告する。(文・写真=森本 洋子)

建設計画が持ち上がったスタンディングロック

建設計画が持ち上がったスタンディングロック

このパイプラインを建設しているのは、米国陸軍工兵隊、ダコタアクセス法人、EPA (米国環境保存局)など。パイプラインの距離は、北海道から九州までの長さに匹敵する1,168マイル。ノースダコタ州を越えて、サウスダコタ州、アイオワ州を渡り、イリノイ州までに及ぶ。この建設が完成すると約5万バレルの石油がイリノイ州まで送られることになる。

この建設には、世界38社の銀行が投資した。米国大手のウエルズファーゴ銀行、チェイス銀行、バンクオブアメリカ、シティーバンク、バンクオブスコットランド、HSBC銀行など。日本は、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行が投資している。

政府はこの建設を許可したが今年一月、地元のスーインディアンが 米国陸軍工兵隊へ、環境汚染、パイプラインの事故の懸念を理由に反対を訴えた。しかし、訴えは却下。それから、政府と地元のスーインディアンの対立が始まった。

スタンディングロック インディアン保留地はパイプライン設置建設予定の1キロ以内に立っている。もし事故が発生すると、スー族の飲料水の水源であるミズーリー川が汚染の為に使用できなくなり、環境破壊につながる。

法的にネイティブ アメリカンは政府からインディアン保留地に移された時に、保留地近辺での建設などはネイティブ アメリカンに必ず提案書を提出し、ネイティブ アメリカンの意見を聞かなければいけないことになっている。だが、米国陸軍工兵隊は、地元のスーインディアンには提案書も提出せず、そのまま建設を強行した。

建設予定地の中には先祖の眠っている神聖な場所が掘り起こされることになっており、スーインディアンは「またしても、政府はネイティブ アメリカンとの条約違反を犯している」と語る。

反対する人々は、「ウォータープロテクター(水を守る者)」と名乗る。このミズーリー川は、スーインディアンだけではなく、ノースダコタ州近辺の州の飲料水としても使用されている。今年、米国内での石油パイプラインの事故は25件。この数字が、パイプライン建設に反対する理由を物語る。

◆以下は前編からの続き

11月27日から大雪がスタンディングロック インディアン レザベーションに降ってきた。キャンプ内には約30センチの雪が積もり、非常に厳しい寒さの中で、まだティーピー、ヨート(エスキモー、モンゴルなどで見られる住居)テントなどにたくさんのプロテクターが住んでいる。

キャンプ場の中の撮影は禁止されている。ここに来た者は、あくまでネイティヴ アメリカンのゲストであり、他人の家の暮らしを写真に撮ることは失礼であるということだった。

大雪がキャンプを襲った

大雪がキャンプを襲った

キャンプの中には、テント、防寒具、薬、食べ物などが揃い、必要なものは手に入る。この多くが寄付された物だ。

医者のテントも常備しており、プロテクターが安全に過ごせるようにボランティアによって、設置された。セイクレッドストンーンには学校も建設されており、厳しい冬に向けて準備が進められている。

実際にここでの冬に入っての生活は本当に寒かった。ブリザードが訪れ、テントの中の物は全て凍ってしまった。氷点下用のスリーピングバックがなければ寒くて寝ていられない。風邪、インフルエンザになる人が多く出ていた。

キャンプには全米中から多くの物資が寄付された

キャンプには全米中から多くの物資が寄付された

毎日、オセティーキャンプまでセクレッドストーンキャンプから約1キロの雪の中を歩いた。今まであまり耳にしなかった多くのネイティヴ アメリカンの部族の名前を聞き、各部族の旗を目にした。

ネイティヴ アメリカンは長老の言うことが正義であり、必ず彼らに従わなければならないとキャンプ内では、何度も教えられた。

毎日、非暴力のオリエンテーション、ディレクトアクションのトレーニングが行われる。リーガルチーム(弁護チーム)もおり、自分の権利を主張する為の説明を受けることができる。

簡易トイレのドアには、何時にオリエンテーションがあり、非暴力アクションの時間などが書いてある。すべて非暴力が中心なので、ここにいて危険を感じたことはなかった。

11月20日の夜に警察から冷水を浴びさせられ、催涙ガスをかけられた男性に話を聞いた。

「警察たちは、私たちをこの場所から退散させたいが、それは不可能である。しかも、この吹雪の中で、沢山の荷物を持って移動することなど不可能。沢山の人々の安全を考えれば、移動などできるはずがない。警察は、私たちがこの地に留まることを防止している。市は、この土地の近くの雪かきのサービスを止め、道は非常に危険な状態になっている。ここへ来る人々は、凍った道を通り、ここから出て行く人たちも、危険な凍った道を通らなければならない。本来、警察及び市は、市民の安全を第一に考えなければいけないはずなのに。私は、武器も持たずに、沢山のプロテクターと共に橋で祈っていた。しかし警察は私たちに水をかけ、催涙ガスをかけて逮捕した。そしてここから一時間かかる街ビスマックへ連れて行かれ、ドックハウスと言われる監獄に入れられた。私のように抵抗もしていなければ、武器も持っていない人間をそのように扱うのは、人権問題に関わる」

一番の大きな問題は、石油パイプを建設するために警察、政府は手段を選ばずに反対している人たちを攻撃していたことだ。両キャンプ場の横にある川には、何隻か小さな船があったがそれも警察によって壊された。

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12月4日、多くの退役軍人たちがこの地へ到着した。彼らの役目は、このキャンプで冬に向けての準備と謝罪である。今まで白人たちが土地を奪い先祖を惨殺したこと、条約を守らなかったことをテレビの前で謝罪したいとのことだ。

オリエンテーションでは、ノンバイオレンンスを重視。どんなことがあってもネイティヴ アメリカンのエルダーの指示に従い非暴力の意思を辛ぬくことを誓い合った。

同日の午後、米国陸軍工兵隊から、スー族の代表のデイビット アーチャムバルドさんへ、石油パイプラインの建設中止が伝えられた。米国陸軍工兵隊は、環境破壊の懸念がある為に他の安全な場所へパイプラインの建設を考えるとのことだった。

ネイティヴ アメリカンの祈りが届いいたとエルダーたちは言う。水は命である。

「Water is Life」 のスローガンと共に、長い間戦ってきたプロテクターたちは、寒い冬に安堵した。

12月5日、ネイティヴ アメリカンの各部族、退役軍人、プロテクターたちが封鎖されている橋まで大吹雪の中、歴史的なマーチを行った。今回は沢山のメディアが集まっており、今までこの件を取り上げなかったメディアも現場に駆けつけていた。

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最後に弁護士であり、自身もネイティヴ アメリカンであるパトック キンケイド氏にお話を聞いた。

「このオセティーキャンプは、トゥリーティーランドであり、土地の権利がとても複雑になっている。ネイティヴ アメリカンの権利があるのはミネラルの権利(この土地で掘り出される鉱物などの権利)、ミズーリ川の周りの場所の権利、そして土地の上空の権利がある。その他は、米国陸軍工兵隊の私有地になる。今、一番の重罪を負っているのはドローンを飛ばしているアクティビストだ。
彼らには、空の権利があるにも関わらず、一番大きな罪を着させられた。なぜならば、彼らの写真や動画のおかげで、米国陸軍工兵隊が法廷で不利になる証拠が出てきたからである。米国陸軍工兵隊と警察は、組んで武装していない人々に不法に武器を使った。これらは、必ず法廷に持ち込んで裁きを受けなければならない。
なぜこの問題がとても重要であったかというと、環境破壊の懸念がされている場所へ、パイプラインの建設を大企業は、人権を無視してでも押し通そうとし、ケガ人を出し、嘘の声明をメディアに送っていた。大企業のソーシャルリスポンシビリティーは全く見えない。利益のみを追求し続けて走っている大企業たちが都合の良いようにできている法律が浮き彫りになった。
民間人を守る立場である警察をも石油会社は買収していたこと。デモクラシーの上に立っているアメリカという国は、消費主義(コンスーマリズム)が先立ち、周りが見えなくなっているのではないか。
そういった中での、ネイティヴ アメリカンの勝利はこれからの環境問題に関わるアクティビズムに大きな影響を与えることになるのではないか。又、歴史上でネイティヴ アメリカンの部族たちが一度に同じ場所に集まることは稀である。アメリカではまだまだ、人種差別の問題が続いているが、人種、部落を超えた環境問題に立ち向かい、歴史的にも大規模な反対運動が勝利を得られたことはこれからの環境問題に立ち向かう際の戦略に役立つと思う。
迫害され続けてきたネイティヴ アメリカンの勝利は、本当に大きな勝利だと私は思う。
来年、共和党のトランプ氏が大統領になるが、トランプ氏もこのパイプラインに投資している。すでに、ノースダコタパイプラインの代表は副大統領のペンス氏に今後の相談を持ちかけている。建設再開されないように願うばかりだ」

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