俳優の伊勢谷友介氏が代表を務めるリバースプロジェクトとイトーキは7月末、京橋にあるイトーキ東京イノベーションセンターSYNQAで「第5期 学生版松下村塾リバースプロジェクトwith ITOKI」を開いた。全国各地からおよそ80人の学生参加者が集まった。学生たちが自分ではまだ気づいていない志を見つけ、行動に移すための思考プロセスを身につけるためのワークを行う。今回のテーマは、「キミに志はあるか?」。(松尾 沙織)

「キミに志はあるか?」をテーマに開催した学生版松下村塾リバースプロジェクトwith ITOKI

1日目、参加者たちは4人の講師やメンターによる講義とトークセッションを聞き、自分の志に向き合う。2日目は、それをもとにワークシートを使って自分の志を可視化し、対話を通して明確化していく。そして3日目は、全員の前で各々が発見した志をプレゼンするというプログラムになっている。

1日目は、リバースプロジェクト代表の伊勢谷友介氏、イトーキ CSW事業の総括プロデューサー戸田裕昭氏、キャンサーペアレンツ代表の西口洋平氏、ゼロワンブースター取締役の合田ジョージ氏が登壇した。

■株式会社リバースプロジェクト 代表 伊勢谷友介氏の講義 
「松下村塾再の目的と志の定義」

現代版松下村塾は、吉田松陰の二つの考え方をもとに開催されていると伊勢谷氏は説明した。

一つは「知行合一」。これは、知ったら行動にしてこそ意味があり、行動しないなら知らないことと同じであるということを意味する。

二つ目は、「志を持って万事の源となす」。これは、何事も志がなければならない、志を立てることがすべての源になる、ということだ。志は人間ならではの能力だ。

動物は欲望に順ずることで種族を残すが、人類が動物のように生きてきたことで、人類の消費が地球の再生能力を超え、食料やエネルギー不足などの問題が起きている。これに対する問題解決をすることに、人間の存在意義のようなものがあるのではないか、と伊勢谷氏。

トークセッションの模様。左から、株式会社リバースプロジェクト共同代表 龜石太夏匡氏、キヤノン株式会社 田中純矢氏、株式会社イトーキCSW事業部総括プロデューサー 戸田裕昭氏、株式会社リバースプロジェクト代表 伊勢谷友介氏、株式会社ゼロワンブースター 平岡仁志氏、株式会社ゼロワンブースター取締役 合田ジョージ氏

人は他の動物たちとは違い、「何のために生きているか」を知ることができる生物だ。そして、自分が生きているその先の未来を想像し、そこから現在の行動として形にできる。これこそが命の源泉となり、志となっていく。松下村塾が、明治維新を起こした革命家たちを生み出した所以も、この教えからきていると伊勢谷氏は話す。

■大志を持って小志を歩む

今回の松下村塾のワークで使用するシートは、「大志を持って小志を歩む」という考えのもと作成されている。「大志」とは、人が生まれながらにして持っている命の意味であり、自身の中に発見するもの。

それに対し「小志」とは、大志を達成するための道、個々の描く未来を実現するための方法となるもの。参加者たちは、シートの中央に「大志」を書き、その周りに「小志」を書いていく。松下村塾では、この大志を発見し、小志を設計していくプロセスについて学ぶ。

今回使用したワークシート

「今に至るまで、世界の常識は人の手で変えられてきました。だからこそ、今生きている人たちによってしか社会は変えられないのではないでしょうか。”種の保存”を根幹に持ちながら、人類の未来を創る自由と責任を最大化していくことが、個人の命の意味だと僕は思っています」と伊勢谷氏は語った。
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■株式会社イトーキ CSW事業部総括プロデューサー 戸田裕昭氏の講義
「志の見つけ方と磨き方」

株式会社イトーキ CSW事業部 総括プロデューサー戸田裕昭氏

戸田氏の講義では、手がけてきたプロジェクトの紹介や、イトーキCSW事業部(=Corporate Social Will)についての講義を行った。今の日本は人口減少や地域活性化が表立った課題となっている。それに対し戸田氏は、目の前の課題ありきではなく、未来を描き出し、ビジョンの実現に貢献するような施策を事業化し、様々なプロジェクトを行ってきた。

イトーキCSW事業部のプロジェクトについてはこちら

そして、自らのビジョンをイトーキとして実行するためCSW事業部を立ち上げる。この事業部は、社外メンバーと共に構成されており、新しい企業の形を創造していると戸田氏。主には、資金や資材が潤沢にありながら、ビジョンの実現や事業開発に困っている大企業の困りごとを一緒に解決するプロジェクトを扱う。

国産野菜の普及、規格外野菜の利活用促進をする「OFFICE de YASAI」は、オフィスで新鮮な野菜や果物を購入できるというもの(左下)。また、「全日本制服委員会」では、エシカルな素材で且つデザイン性の高い制服を製作することで、社員のモチベーションの向上や雇用創出に貢献している

■なぜそれが課題なのかが重要

戸田氏が過去、志と向き合う際に行ったことは「なぜ?」を繰り返し自分に問うことだった。そうすることで、だんだん自分の本質に近づいていく。そこから、自分自身にしかない「志」を見つけることができると戸田氏。

そして、その志が見えてきた先に行うことは、自分のWANTとCANについて考えること。それを大勢のWANTとCANに重ね合わせ仲間にしていくことで、ビジネスに結びつけていく。

「自分に対して向いている欲では長続きしない。自分だけでなく他者に対しても向いている欲だと、より多くの人の共感を生み、仲間もできてビジネスとして発展します。そして、仲間を探すという点で重要なのは、自分にはないものを持った人を仲間にすること。そうすることで、様々な視点を得ることができる」

ビジネスはそもそも社会を良くするために行うものだと戸田氏。にもかかわらず、『ソーシャルビジネス』という言葉が流行っているのは、ほとんどの人が、そもそものビジネスの目的を忘れてしまっているからではないか。「ビジネス本来の活動で社会を良くしていきたい」と戸田氏は熱く語った。

■一般社団法人キャンサーペアレンツ代表 西口洋平氏の講義
「今を生きることの大切さ」

一般社団法人キャンサーペアレンツ代表 西口洋平氏

現在がんは、日本人の2人に1人がなる病気であり、5年相対生存率(=5年後に生存している確率)は、約70%まで上昇しているのをご存知だろうか。

西口氏は、35歳という若さでがんを発症した。家族、仕事、お金、治療、たくさんの不安を抱えた闘病生活で、『こんなに世界は広いのに、まわりに同じ境遇の人がいない』ということに疑問を持ったことから、ITの知識がない中で、がん患者が繋がることができるWEBサービス「キャンサーペアレンツ」を開発した。

今ある患者会の分類は「がんの種類(=がん種)」しかなく、年齢や子どもがいるかどうかなどの境遇の分類がない。また、発症した人々が抱える悩みとして、仕事や社会との関わりの中で病気のことが言いづらいという人も多く、気軽に相談できる場所や、共感できる人を探す場が少ないという現状がある。

「キャンサーペアレンツ」は、こういった悩みを解決すべく、がん種、ステージ、配偶者など、同じ境遇の人を探せる仕組みになっている。「繋がることで前向きになってほしい」と西口氏は話す。サービスは日本全国の患者を対象にしており、2016年4月のリリースから、今では約1,100人の会員にまで増えている。

■人生最後の仕事

さらに、大きな問題として、がんを発症し仕事ができない患者が多く存在することも挙げられる。それに対しキャンサーペアレンツでは、クラウドソーシングで患者の雇用創出も行う。

『がんになっても生きやすい社会』 の実現によって、子どもや若者に未来を残すことが使命だと語る西口氏は、病気とともに生きながら、人生最後の仕事に取り組む。今後は同じような立場の人によるサポート「ピアサポート」で、解決出来る領域をさらに増やしていく予定だ。

■株式会社ゼロワンブースター取締役の合田ジョージ氏の講義
「事業創造で世界を変える」

株式会社ゼロワンブースター 取締役合田ジョージ氏

合田氏は、コーポ―レート・アクセレーターという肩書きで、日本各地でワークショップを開催し、起業家育成を行っている。合田氏の志は、「事業創造で世界を変えていくこと」。いつもワークショップで説明するのは、「思い込みを解き、過去を捨てられるか」ということだそうだ。

特に多くの日本人は、周りを気にして失敗してはいけないという強い思い込みを持つ。「成功しなければならない」というのが前提にあることによって、主体的に動くことを恐れる人も少なくない。

「イノベーションはそもそも批判されるものだから、失敗を恐れずに行動すべきです。勇気からイノベーションは生み出されるのです。起業することによって、大企業では身につかないようなスキルが身につきます。成長したいのなら、起業も選択肢と言えます」と合田氏は話す。

さらに、既存の価値観や学びを批判的思考によって棄て去ることで、新たに学び直す「unlearning(アンラーニング)」が重要だと話す。

「偏見や常識は社会によってつくられるもの。日本の教育は詰め込み型なので、自分の頭で考えることがあまり鍛えられない。何度も自分に対しての問いや、社会に対しての問いを繰り返していって欲しい」と合田氏は言葉に力を込めた。

これらの講義を受けて、参加者たちは自分の中にある「志」と向き合っていく。二日目は、実際にシートに書き込んだ「大志」と「小志」について、何度もディスカッションを繰り返す。言語化することで、自分の思いや考えを明確化し、違う人の視点も取り入れながら、さらにブラッシュアップしていく。

心の琴線に触れる講師たちの言葉から、自分の中にあった思いや考えを言語化する。心が反応する部分を客観的に捉え、自分が求めるもの、本当にやりたいことを見出していく。

メンターたちはそれぞれのグループに入り、丁寧に対話して回った

学生とともにワークショップに参加したリバースプロジェクトの共同代表龜石氏

3日目は、2日目で磨き上げた志をまとめ、全員の前で1分間で発表する。そんな中、参加者たちは顔を輝かせながら、自分の志について発表し合った。

各々の発見した志、その志をどう実現していきたいのかなどを語った

「今回参加したことで、たくさんの気づきをもらえた」「同志にたくさん会えて良い刺激になった」「初めてこんなに自分のことを考えた」と参加した学生たちは感想を語る。

この3日間で、若者たちの中に眠るたくさんの”志”に出会うことができた。

昨今では、未来に希望が持てないと話す若者が多い(http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26gaiyou/tokushu.html)。一部の専門家は、自己肯定感の低さや、自国の将来を肯定的に捉えられていないことが原因だと話す。こうした日本の若者の現状に対して、今回の松下村塾のワークは有効に作用するのではないだろうか。

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