子ども用車いすの存在をご存知ですか?介助型の子ども用車いすは、大きさや見た目がほとんどベビーカーと変わらないため、ベビーカーと誤解されてしまうことがあるといいます。

「邪魔だから折りたたんで」「歩かせなさい」「そんなに大きな子をまだベビーカーに乗せているの」と非難されてしまったり、必要なサポートを受けられなかったり…。様々な困難を強いられる現実に、立ち上がった一人の女性を取材しました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■ベビーカーと勘違いされ、非難される現実

介助型の子ども用車いす。一見するとベビーカーに見える

「子ども用車いすのことをもっとたくさんの人に知ってもらいたい」。そう話すのは、一般社団法人mina family(ミナファミリー・大阪)代表の本田香織(ほんだ・かおり)さん(36)。本田さんの長女の萌々花(ももか)ちゃん(5)は、0歳の頃に「ウエスト症候群」というてんかんの一種を発症しました。

体に知的・身体的障がいが残り、今でも自力で立ったり座ったりすることはできません。家族で外出するには、子ども用車いすはなくてはならない存在です。しかし、子ども用車いすを押して街へ出ると、様々な壁が立ちはだかったといいます。

お話をお伺いした本田さん。娘の萌々花ちゃんと

「バギータイプの子ども用車いす(介助型車いすの1種)の場合、一見すると非常にベビーカーに似ているため、小さい子どもが乗っているとベビーカーに誤認されてしまうことがある。『そんなに大きな子どもをベビーカーに乗せているなんて』『歩かせなさい』といわれたり、車いすが入ることができるはずの公共の場で、警備員や職員の方に『ここはベビーカーでは入れない』『車いすはお手伝いするが、ベビーカーはサポートできない』と咎められたりすることがある。子ども用車いすの存在が知られていないばかりに、まるでモラルの無い親だといわんばかりの非難を受けてしまう。つらい現実を突きつけられた」

■ベビーカーとの根本的な違い

こちらは対面式の子ども用車いす。それぞれ症状を診断した医師の指示書に基づいて車いす業者より購入するというが、一見するとベビーカーに似ており、誤認されることが少なくない

満員電車などに乗ると、ベビーカーに見えてしまうことから簡単に「折りたたんで」「子どもを抱けるでしょ」と言われてしまうという子ども用車いす。しかし、見た目はベビーカーに似ていても、その役割や機能はまったく異なると本田さんは指摘します。

「子ども用車いすは、ベビーカーと違って簡単に折りたためるものではない。ベビーカーは持ち運びしやすいように、重量が1kg未満のものも多くあるが、身体障がいのある子どもが利用できるように、子ども用車いすは軽くて6〜7kg。重いものは、数十kgを超えるものもある」

「また、たとえば胃ろう(胃に穴を開け、栄養を直接胃に入れること)を受けている子どもの場合、半日外出するだけでも、栄養剤を何パックも積んでいたり、誤嚥(ごえん)を防ぐための吸引器や消毒薬、呼吸器などの医療機器、そして医療機器を動かすためのバッテリーなどを車いすに乗せて持ち運んでいることもある。こういった場合、ベビーカーのように手軽にたたむことは難しい」

子ども用車いすでハロウィンパレードに参加した時の1枚。「子どもたちがもっと安心していろいろな場所へ外出できるようにしたい」と本田さん

さらに、もし仮に折りたたむことができたとしても、片方の手に折りたたんだ車いすを持ち、もう片方の手に体に障がいのある子どもを抱くことは不可能だと本田さん。

「健常の子どもであっても、新生児を片手で抱くことはしない。3歳4歳になって、それなりに体重のある、でも首が据わっていなかったり、体幹が柔らかい状態の子どもを片手で抱くのは不可能」

■「娘が生まれ、障がいを抱える親たちの苦悩を知った」

笑顔を見せる萌々花ちゃん。診察やリハビリへの通院も、楽しい場所へのお出かけも、車いす無しには行くことはできない

「娘が生まれるまでは、障がいとは無縁の世界で生きてきた」という本田さん。萌々花ちゃんが障がいを持って初めて、障がいがある人が抱える社会の理不尽さを痛感したといいます。

「ブログで娘の闘病記を発信していると、同じ状況にある多くのお母さんたちがこの問題で傷つき、涙を流し、我慢していることを知った。実際に泣いているお母さんを目にしたことも何度もあった。このままではいけないと感じ、2015年に団体を立ち上げた」と活動のきっかけを振り返ります。

子ども用車いすで出かけても、車いすとして扱われることはほぼないという

「2〜3歳の子どもを連れている時期が、最も誤解を招きやすい時期。この年齢は、健常者の子どももベビーカーに乗る時期で、ベビーカーだと誤認されやすい。健常者の子どもを持つ親であっても、子育ては手探り。2〜3歳は、やっと少し落ち着いてきたかな、という頃。障がいのある子どもを持つ親御さんは、我が子の病気の宣告を受け、慣れない病院での入院治療や頻繁な通院をしながら、他の子との差も見え始め、子どもの将来への不安も募ってくる時期。身体的にもメンタル的にも追い詰められ、本当にギリギリでつらい時。そんな状態でやっとの思いで外に出て、さらに周囲から非難されたら、どうだろうか」と疑問を投げかけます。

「子ども用車いすが認知されておらず、ベビーカーと誤認されてしまうばかりに、非難を受けてしまう。ここを変えていきたい」

■「車いすマーク」やポスターで啓発活動

mina familyがつくった「子ども用車いす」マーク。視覚から直感的に意図を理解できるよう工夫されている

そうは言っても、障がいの有無をパッと見た目で判断することや、子ども用車いすを見て一目でそうだと判断することもそう簡単ではないと本田さんは話します。

「子ども用車いすは、一人ひとりの症状にあわせて仕様が異なるため、かたちや大きさもまちまち。また、デザインが年々オシャレになっていること、サイズの面でも最近は海外製の大きなベビーカーが多く輸入されていることから、かたちや大きさで車いすとベビーカーを判別することがより難しくなっている。子ども用車いすだと識別してもらうために、子ども用車いすのマークを作り、広くたくさんの方に使っていただけるよう活動している。これをつけていれば、『車いすなんだな』ということが一目でわかり、認知や啓発につながる」

子ども用車いす啓発ポスター

また、啓発ポスターの配布や、講演を通じた認知の促進にも努めているといいます。

「『あ、子ども用車いすなんだな』とすぐに理解してもらえるような環境づくりのためには、子ども用車いすを知るきっかけがない人、興味がない人たちにどうやって知ってもらうか、どう訴えていくかが課題。萌々花は外出が大好き。彼女のためにも積極的に外出して、街中ですれ違った人が『さっきすれ違ったのは、車いすだったね』と認識してくれることで、少しずつでも子ども用車いすを身近に感じてもらい、存在を浸透させていきたい」

■子ども用車いすの認知を広げる活動を応援できるチャリティーキャンペーン

萌々花ちゃんの疾患「ウエスト症候群」の患者家族会の会長も務めている本田さん。「日々自分に出来ることを、精一杯取り組んでいる」と話す

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)はmina familyと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×mina family」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がmina familyへとチャリティーされ、子ども用車いす啓発ポスターを新たに1,000枚発送するための資金となります。

「JAMMIN×mina family」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込み)。他にパーカーやマルシェバッグ、キッズ用Tシャツなどもあり

JAMMINがデザインしたチャリティーアイテムには、様々なかたちの椅子に混ざって、子ども用車いすが描かれています。

「皆それぞれに個性があり、違っているのは当然で、それぞれに素晴らしいところがあるんだよ」というメッセージを表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、5月21日〜5月27日までの1週間。JAMMINホームページより購入できます。

JAMMINの特集ページでは、子ども用車いすの啓発に取り組む本田さんへのインタビューを、より詳しく紹介しています!ぜひチェックしてくださいね。

ベビーカーではなく、車いす。「子ども用車いす」の存在知って〜一般社団法人mina family

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!


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