タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆農水省の通達

「つまり3条で農地で農業をする権利を得て5条で営農型太陽光発電のため農地で太陽光発電をする権利を得るわけだ」末広の声が鳴り響く。
「農業するにはその農地で農作業をする資格がなければなりませんよね」と啓介。
「あたりめえよ。だけど実際には3条なんかの許可がなくても農業している奴など無数にいるけどな」
「ではなんで3条の許可が必要なんですか?」片桐が聞いた。「役所に報告していない農地では農転の許可が下りないからよ」
「では3条と5条は別物なのですね?」
「あたりめえよ3、5条なんて法律なんかありゃしねえよ」
「私も研究者ですからね」と杉山が切り出した。
「3条を申請してから5条を申請しようとしたのですよ」
「それからどうした」末広がせかした。
「農業委員会は3条と5条を一緒に出さなくてはだめだと言うのです」
「なぜですか」啓介が尋ねた。
「農水省のガイドラインにそう書いてあると言うのです」
「なぜですか」今度は末広が尋ねた。
「とにかく理由は言わないのですよ。理解していないから言えないのでしょうね」珍しく温厚な杉山がイラついて話した「農水省の文章は3条と5条は一緒に検討されたいと局長から県に通達していますが、何が何でも一緒でなければならないとは書いてないのです」

読者のみなさんこの文章を見てどう受け止めますか?????

「確かにそう書いてありますね。だけど何のためにそうするかを理解しなければなりません。
理由を農水省に聞きました」
「何と言っていましたか?」片桐が聞いた。
「それは農業事業者の利便性を考えてです。
全く思った通りの解答でした」
「それを農業委員会に問いただしたのですね」
啓介が聞いた。
「問いただしました。しかし何がなんでも一緒でなければならないと書いてあるからダメだと言うのです」
「では農水省に聞いてくれと言えばいいではないですか?」片桐が言った。
「言いましたよ」
「それで?」
「農業委員会は農水省に直接聞いてはいけない風習があると言うのです」
「ばかばかしい」片桐が吐き捨てるように言った。「日本の為にならねえ奴らだ」

◆日本の食を壊しているのは誰か?

「私が農水省に取材をしましょう」片桐が言い出した。「そりゃいい」「それはいい」「それはよい」三人が賛同した。
8月の終わり。片桐は地下鉄日比谷駅の階段を登っていた。サリン事件はふた昔も前の事だが、阪神淡路大震災から始まって、原発事故まで平成は平和に成ってなかったなあと片桐は思った。霞ヶ関は暑く、ミンミンゼミが鳴いていた。
原発反対の小屋が経産省側の交差点に建てられていた。いくつかの旗のぼりを横に見て片桐は農水省に向った。入り口で手続きをすませ、省内に入った。農地転用の担当者は古い建物の一階の部屋にいた。

ノーネクタイの若者が応対に出てきた。てきぱきとしている、早速本題に入った。
「営農型太陽光発電というのはいいアイディアですね」片桐が切り出した。「名前がいい」
「それはありがとうございます」大泉という担当者が微笑んだ。
「ズバリ言いますが、この素晴らしい名前と考え方は普及していますか」片桐が聞いた。
「普及しているとは言えませんね」眉をひそませた大泉が答えた。「PR不足かなあ」
「末広大助と言う人の名前をご存知でしょう?」

「知っています。ソーラーシェアリングとかソーラーシェーディングとかを提唱している人ですね。それを役所用語にしたのが、営農型太陽光発電ですよ」
「そうですよね。営農型太陽光発電とか6次産業とか最近の農水省はセンスがいいですね」
「久しぶりに褒められたなあ」と言って大泉は声を出して笑った。
片桐も微笑んで続けた。「その末広さんがいま困っているんですよ」
あの人も「困ったなんて言うんですか?」
「困らないで怒っています」

「怒って片桐さんに記事を書かせる?」
「いや、誰かを糾弾するのではなく、営農型太陽光発電をもっともっと普及させるためです。それにはもっとPRが必要です」
「ほう、だれに対してのPRですか」
「地方自治体に対してです」
「普通PRと言ったら、民間事業者に対してですが、今回はなぜ官庁なのですか」
「民間である農家や太陽光発電事業者の営農型太陽光発電に対する希望は山ほどあるのです」
「山ほどですか。ではPRは必要ないですね」

「しかしそれをストップする自治体が多いのですよ」
「なんで中央官庁や末広おじさんの発想を地方自治体がストップするのですか」
「そこが取材の眼目なんです」
「なにか裏の力が働いている?」
「そうかもしれませんが違うかもしれません」
片桐は原発取材のときの武者ぶるいを感じた。

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