現在、子どもの貧困の割合を示す相対的貧困率は13.9%、子どものおよそ7人に1人が貧困だといわれています(平成29年 厚生労働省「国民生活基礎調査」から)。「貧困にある子どもたちをサポートしたい」と、お寺の「おそなえ」を仏さまからの「おさがり」として、必要としている人たちに「おすそわけ」しているNPO法人があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
その名も「おてらおやつクラブ」。運営のため、宗派を超えてつながり、各地を走り回っているのは、普段はお寺で修行するお坊さんたち。活動について、お話を聞きました。
■月間のべ9,000人の子どもにおやつを届ける
「特定非営利活動法人おてらおやつクラブ」(奈良)は、「仏さまやご先祖さまへの『おそなえ』の『おさがり』を、経済的に困難な状況にあるご家庭へと『おすそわけ』したい」と、2014年1月に活動をスタートさせました。
活動についてまずお話をお伺いしたのは、「おてらおやつクラブ」事務局メンバーの一人、高山信雄(たかやま・しんゆう)さん(40)。普段は愛知県名古屋市にある久遠寺(真宗高田派)の副住職をされています。
「私たちは、『おすそわけできるよ』と言ってくださるお寺さんと『おすそわけがほしい』という支援団体や個人の方をつなぎ、おやつを届けています。これまで932の寺院と377の団体をつなぎ(2018年9月2日現在)、9,000人(月間のべ人数)の子どもにおやつを届けてきました」
「おてらおやつクラブ」の活動のきっかけは、2013年5月に大阪で起きた母子餓死事件。あるマンションの1室で、28歳のお母さんと3歳の息子さんの遺体が発見されました。
「捜査によると、夫からDV(配偶者間暴力)を受けていたお母さんは、別居していた夫に居場所を知られないよう住所登録をせず、実家にも住んでいる場所を伝えていませんでした。行政の支援を頼った形跡もなく、二人が発見された時、部屋は電気やガスが止められ、冷蔵庫には食べ物が何も入っていなかったそうです」
この事件を目にした時、「おてらおやつクラブ」代表の松島靖朗(まつしま・せいろう)さん(42)が「お寺に何かできることはないのか」と強く思い、シングルマザーを支える団体に連絡をとったのが、活動の始まりだといいます。
■仏さまへの「おそなえ」の「おさがり」を「おすそわけ」
「おてらおやつクラブ」は、「おそなえ」を仏さまから「おさがり」として、子どもをサポートする全国の支援団体、児童養護施設や子ども食堂、ひとり親支援団体や子どもの学習支援団体などへ届けています。
「活動に共感した各地のお寺と支援団体をつなぎ、なるべく近くにあるお寺と支援団体をマッチングしながら、できるだけたくさんの子どもたちにおやつが届くようにしている」と高山さん。
支援団体の活動が充実するよう、「おすそわけ」でサポートすることを基本としつつ(「後方支援」)、事務局に連絡があった家庭へは、地域の支援団体とつながるまでの間、直接「おすそわけ」を届ける「直接支援」も行っています。
「私たちの思いとしては、ただおやつを『おすそわけ』するだけでなく、決して見捨てないという仏さまの慈悲の心も『おすそわけ』したいと思っています。仏さまは『自分からは見捨てない、自分からは見放さない』。この姿勢を、活動の中で私たちも実践していきたいという思いがあります。孤立している人に『一人じゃない』と感じてもらうこと。それが私たちの大きな目的です」
■「貧困=貧乏+孤立」。貧困状態にあるすべての子どもたちに「おすそわけ」を届けたい
「子どものおよそ7人に1人が貧困だといわれる現在、食生活や服装も一見普通に見えるので、周囲からなかなか気づかれず見えにくい部分がありますが、日本国内で実に280万人もの子どもが貧困状態にあります。この280万人の子どもたち皆に『おすそわけ』を届けたい。そして『誰かが思ってくれているんだよ』ということを知ってほしい」と高山さん。
「私たちが考える『貧困』とは、『貧乏(経済的困窮)』だけを指すのではなく、そこに『孤立(社会的孤独)』が合わさったものだと定義しています。中には、公的な支援やさまざまな制度からはどうしてもこぼれおちてしまうご家庭もあります」
「『おやつを届ける』という単なる経済的支援にとどまらず、『ひとりじゃないんだ』『見守ってくれている人がいるんだ』と感じてもらうこと。そして『孤立』を防いでいくことが重要だと考えています」
■いろんなおかげで今がある
活動を始めて4年半、活動に参加するお寺からは「以前は消費しきれなかったおそなえを『ありがとう』と喜んでもらっていただけるのがうれしい」「貧困問題は決して他人事ではなく、身近な出来事だと気付かされた」といった声をもらうといいます。
おやつを届けている支援団体からは「おやつをきっかけに、母子との交流が増えた」といった声や、おやつを届けている家庭からは「自分たちの手元に届くまで、たくさんの方のやさしい気持ちも一緒に届けられているようで、毎回ありがたく、うれしい」「心が折れそうな時に荷物が届き、涙があふれた」といった声が届いていると高山さん。
「支援が必要なご家庭におやつを届けるため、協力してくださるお寺を探したり、発送作業に追われたり…、一人ひとりの事務局メンバーが、本業(住職)をこなしながら、日々奔走しています」
「見えないところに目を向けて『おかげさま』に手をあわせる。私たちはそれぞれ皆、決して単独で生きているのではなく、いろんな方との関わりの中で生かされています。『いろんなおかげがあって今がある』ということに感謝しながら、ご縁やつながりを、孤独を感じている方たちに届けたいと思っています」
■「お寺の社会活動」の意味とは
もう一人、「おてらおやつクラブ」事務局メンバーの林昌寺(臨済宗妙心寺派)副住職の野田芳樹(のだ・よしき)さん(28)に、「お寺」という古くから地域の人々の生活に根付き、共に生きてきた場で「社会活動をする」ということの意義について、お伺いしました。
「子どもの貧困に限らず、様々な社会問題が世の中で取り沙汰されています。そのことを皆さん知ってはいるし、そこに心を向け『問題解決や緩和のために何かしたい』というふうに感じている人もたくさんいるということを、この活動を通じて知りました」
「ただ、一方で『何ができるかわからない』『どうしていいかわからない』という声も聞きます。『How(どのように)』の部分でひっかかり、気持ちはあっても行動に移すことができない、という方たちが多くいらっしゃるのではないか」と野田さん。
「私たちの活動を通じ、お寺がこういった方たちの思いの受け皿にもなり得るということを感じています。また、お寺からしても、こういった活動が『何らかのかたちでお寺に足を運びたい』という方と、お寺とをつなげてくれる接点になるのかなと思う」とお寺の役割を語ります。
■活動通じ、広がったご縁
活動に携わるようになって3年を迎えたという野田さん。現在は「おてらおやつクラブ」の事務局メンバーとして、毎月「おすそわけ」の発送業務を行うほか、事務局の仕事も精力的にこなす中で、あることに気がついたといいます。
「活動を始めた当初は、自分が『おすそわけ』をしていると思っていました。不満があったとか、何か嫌な思いをしたというわけではありませんが、おやつを一つひとつ箱詰めして発送するのは、時間も送料もかかることは事実です」
「けれど、ふと自分の歩みを振り返った時に『一番大事なおすそわけをもらっていたのは、自分ではないか』と気がついたんです。この活動をしていなければいただかなかったご縁を、いつの間にかたくさんいただいていました」
「活動を続けていくことが、『子どもの貧困は実は身近にあって、その解決に向けて取組んでいる人がいる』ということを周囲の方たちに知ってもらう一つの広告塔としての役割も果たすと考えています。これからも、ささやかでも地道に、活動を続けていきたいと思います」
■子どもたちにおやつを届ける活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「おてらおやつクラブ」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×おてらおやつクラブ」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、「おてらおやつクラブ」の事務局から家庭へ直接おやつを届ける「直接支援」の送料に充てられます。
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、飴と、それを持つ手。与える側とも、与えられる側とも受け取れる手を描き、おやつをきっかけにつながりが生まれていく様子を表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、9月3日~9月9日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、高山さん、野田さんへの詳しいインタビューのほか、「おてらおやつクラブ」事務局のある安養寺でのおやつの発送作業の様子も紹介しています!
こちらもチェックしてくださいね!
・お寺の「おそなえ」を「おすそわけ」。おやつを通じ、支援が必要な子どもたちとつながる〜NPO法人おてらおやつクラブ
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!
【JAMMIN】
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