北海道胆振地方を震源に、最大震度7を観測した地震から2カ月以上がたった。北の大地に冬の足音が近づく11月中旬、大規模な土砂崩れで36人の命が奪われ、今なお被害の爪痕が残る厚真町を訪ねた。(ライター=藤田 愛夏)

震度7に襲われた厚真町。北海道で震度7を観測したのは初のことだった

町には昨春、町職員として移住した私の姉・藤田あさこが住んでいる。姉の町を訪れるのは初めて。被害の大きさを実感する一方で、姉や町の人に話を聞き、「被災地」としてではない厚真町の顔や魅力を多くの人に知ってもらうことで復旧・復興の力になりたいと感じた。

町内では住宅207棟が全壊。第1期分として仮設住宅85戸が完成し、すでに入居がスタート。さらに第2期工事が急ピッチで進められている。今も45人(19日現在)が避難所での生活を続けており、私が訪れた11日もボランティアらが炊き出しをしていた。

まず初めに向かったのは町の中心部を見下ろす小高い場所にある厚真神社。参道の鳥居は倒れ、社殿が傾くなど大きな被害を受けていた。それでも境内にやってきたエゾフクロウがメディアで取り上げられ、多くのカメラ愛好家が集まっていた。

町の復興を願って手を合わせた。そこから被害の大きかった地区を中心に車で町内を回った。車窓の外には黄金色に色づいたカラマツの美しい山林が広がる。そんな景色の中、道路の両側をふさぐように土砂が崩れた場所が現れた。

土のにおいが立ち込めている。土砂に飲み込まれた家、土砂にまみれて残された生活用品。住人か家族、知人だろうか。何かを探しているような男性の姿もあった。特産の米の収穫前に地震に見舞われ、田んぼには収穫されずに稲穂が残ったまま。そこにあった暮らしが奪われた現実に言葉が出なかった。

全壊を免れた家も、見た目ではわかりにくくても傾いたり、家財を失ったり被害を受けているのだろう。姉も半壊した賃貸住宅で生活を続けている。

初めて訪れた厚真町の印象は、「自然豊かな北海道らしい田舎町」。人口約4600人、観光地や道の駅などはなく、正直に言うと、あまり特徴のない田舎、という感じだ。それにも関わらず、少子高齢化、過疎化が進む時代に2014年から4年連続で転入者数が転出者数を上回っている。

その背景には町をあげて取り組む移住・定住策がある。北海道の玄関口・新千歳空港まで約30分、大きな町へのアクセスの良さを生かして住環境や子育て支援策を整備。起業者支援や新規就農者の育成、民間と連携した地域に根差すローカルベンチャー支援などに力を入れてきた。

地方創生の取り組みの成功事例として注目されてきた矢先の地震。これまで積み重ねてきたことよりも被災地として注目されるようになってしまった。

私自身、被害を目の当たりにし、厚真町を「被災地」とだけとらえていることに気づいた。そして、被災地としての顔ではない、町の魅力や良さを町の人たちに聞きたいと思った。

姉は、外の人をも自然に受け入れるオープンさやさまざまな新しい挑戦をしている雰囲気に惹かれたという。町の人たちの後押しを受けて移住を決意。

「面白い取り組みをする移住者自身が魅力となり、新しい人が集まってくる好循環ができていた」。観光の目玉をつくって人を呼び込む、というやり方とは違う。

町を良くして、来てくれる人を手厚くサポートするという土壌ができていた。2012年ごろから町づくりに奔走してきた町産業経済課・宮久史主幹は「地震で厚真は大きく変わってしまった。でもゆったりと流れる時間、町の人たちの心の豊かさや温かさなど、大切にしてきたものは変わってはいない」と話す。

だからこそ、今が厚真の未来の瀬戸際になると考えている。「この地震を未来を良くする力にするか、『地震のせいで』と沈んでいくかはこれからの私たちの手にかかっている」。町にとって幸せな未来とは何か自問する日々だ。

町に移住し、町の魅力を作り出してきた人たちも復興に向けて懸命に歩き出している。再建には町の外の人たちの力を取り込んでいくことも必要だ。

姉は「被災地として見られることに複雑な思いもあるが、少しでも力を貸してほしい」。一方で今すぐ何かを大きく変える手段があるわけではない。

宮さんは「できれば一度町に来て町の人と話しませんか」と呼びかける。「一緒に話すことでアイデアも生まれるかもしれない。こちらもそういうアイデアをもらいたい」と語る。

最後に。厚真町を訪れる前後、5年前まで住んでいた札幌市や新千歳空港にも立ち寄った。地震の影響で観光客数が落ち込んだと聞いていたが、広大な面積の北海道で大きな被害がなかった場所は2カ月以上が経ち、賑わいを取り戻しているように感じた。

だから地震の影響を心配して北海道旅行を躊躇している人やこれから旅行を計画している人には、ぜひ訪れてほしい。

それが地震でさまざまな産業に打撃を受けた北海道を応援することにもつながるはずだ。そして少し足を延ばして厚真町を尋ね、まずは厚真町の魅力を感じてほしい。

※厚真町は11月24-25日、被災地の現状を知ってもらおうと「厚真町の今を知る見学会」を実施します。内容は土砂崩れの被害の大きかった地区の見学や生活再建に向けて歩き始めた移住者との意見交換会など。詳細はフェイスブックから。

※厚真町のこれまでの取り組みや復旧・復興に向けた動きは次のリンクからも知ることができます。

今回取材した宮さんが震災後の思いやローカルベンチャービジネスの再開についてつづった記事も掲載されています。


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