ひとり親や貧困などの背景を抱え、孤立してしまう子どもたちがいます。「家庭の身近な場所にある『地域』で、子どもを支えたい」。そんな思いから、大阪で親子2代にわたって子どもたちを支援するNPOがあります。活動について、話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

週1開催の「いっしょにごはん!食べナイト?」

西淀川子どもセンター分室「ねおほ」の外観

大阪市西淀川区を拠点に活動するNPO法人「西淀川子どもセンター」。大阪の中心街・北新地から3駅のJR御幣島(みてじま)駅から徒歩5分ほどの場所にセンターの分室「ねおほ」があります。ここで週に1度、夜間を大人不在で過ごしがちな子どもたちへの支援「いっしょにごはん!食べナイト?」が開催されていると聞き、取材に伺いました。

出迎えてくれたのは、団体代表の西川奈央人(にしかわ・なおと)さん(39)。12年前に母の日奈子(ひなこ)さん(64)が立ち上げた団体を引き継ぐかたちで、2年前から代表を務めています。

「西淀川子どもセンター」代表の西川奈央人さん。団体の歩みが書かれたポスターを手に

「子どもをめぐる悲しい事件が後を絶ちません。ここ西淀川でも、過去に虐待を受けて子どもが亡くなる事件がありました。事件が起きてからではなく、もっと手前の段階で気軽に子どもが駆けこめたり、周囲の大人がSOSに気づいてあげられる場があれば、子どもたちも少しは楽になるのではないかという思いから活動しています」

団体立ち上げ当時は拠点がなく、公園にパラソルを立てて子どもに声をかけたり、一緒に遊んだりすることから始めたという支援活動。立ち上げて2年目に市営団地の一室を事務所として借りられるようになり、「ぽぴんず文庫」という本の貸し出しや紙芝居をしながら、子どもたちが自由に訪れて遊べる場作りを開始しました。
すると、文庫を閉める時間になっても家に帰りたがらない子どもや、「この後、ゲームセンター行こうや」と誘い合わせ、やはり家に帰らない子どもを目の当たりにしたといいます。

夏休みなどには、キャンプや野外活動などの余暇支援も企画。写真は昨年開催したキャンプでの1枚

「『家に帰っても誰もおらん』『朝から何も食べてない』という子どもたちがいて、昼間ここに来たら一緒にたこ焼きを焼いたりおやつを食べたりしていたのですが、やっぱりどうしても夜の過ごし方が気になる。彼らと夜の時間を一緒に過ごしてみようという思いが、夜間支援『いっしょにごはん!食べナイト?』開催へとつながりました」

買い出しから支度まで、すべてを子どもたちと

「いっしょにごはん!食べナイト?」の夜。ずらりと並ぶ子どもとスタッフたちの靴

取材に訪れたのは、7月のある日。夕方5時の開始時刻を前に、少しずつ子どもたちが集まり始めました。
この日の夕飯メニューはキーマカレーとアボカドサラダ。参加者は子どもが9名、20〜30代のボランティアスタッフが8名、総勢17名です。驚いたことに、なんとスーパーの買い出しから子どもたちと行うのだといいます。

「私たちにとっては当たり前かもしれませんが、子どもたちの中には誰かとスーパーで食材の買い物をするという経験もほとんどない子もいます。それができたらいいなという思いから、あえて買い出しから一緒にするようにしています」と西川さん。何人かの子どもたちとスタッフが、メモを片手に連れ立ってスーパーへ出かけていきました。しばらくして買い出し班が戻ってくると、奥にあるキッチンで早速夕飯の支度にとりかかります。

多世代で子どもを支える

ごはんができるまでの間、熟年のスタッフと一緒に折り紙をして遊ぶ子ども

夕飯ができるまでの間、子どもたちはまるで自宅でくつろぐかのように、思い思いに時間を過ごしていました。スタッフさんと一緒にごはんの支度を手伝う子、おもちゃで遊ぶ子、スタッフさんとマンツーマンで勉強する子、おしゃべりをする子…。中でも印象的だったのが、「ねおほ」に入ってすぐの土間で、若いボランティアスタッフとは別の熟年のスタッフさんたちに折り紙を教えてもらう子どもの姿。「いっしょにごはん!食べナイト?」では、若いスタッフとは別に熟年のスタッフが控えていて、子どもたちを見守っているのだといいます。

「『土間(どま)部』という、熟年層や来客のスペースです。私たちの団体の特徴でもあるのですが、全員で同じ夕飯の支度をして一緒にごはんを食べるのではなく、熟年層のスタッフで形成されている『土間部』は別メニューでごはんを作って食べながら、子どもと若者スタッフが過ごす様子を見守ってくれています」と西川さん。

「土間部」の様子。おいしそうな香りが漂います

「ここの強みは『多世代が集まる』こと。子どもを中心に、彼らと年の近い20〜30代の若者ボランティアスタッフがいて、さらにその周りを土間部の熟年世代がサポートしています。さらにその周辺に地域で支えてくださる方たちや賛助会員さん、食料を支援してくださる方や、学校などの連携機関、活動をサポートしてくださる企業さんなどがいるというイメージです」

「一つだけのスペースだと、その場に馴染めない気持ちの子どもがいた時に、行く場を失ってしまう」と話すのは、西川さんの母で西淀川センターを立ち上げた日奈子さん。

「活動は若い人たちに任せていますが、隣にもう一つ私たちのような場所があることは、子どもにとっては大切。その場にうまく馴染めない状態の時、こっちに来て一緒に遊んだり話したりして少し気分転換しながら、ゆっくり過ごしてくれたらと思っています」(日奈子さん)

そこにあったのは、家族のような風景

調理を手伝う子どもたち

台所では、若いスタッフたちが料理に奮闘中。「これで合ってる?」と手順をネットで調べたり、「土間部」の料理が得意な熟年スタッフの方に「これってどうしたら?」と確認しながら、みんなでワイワイ調理しています。

…ああ、このワイワイが楽しいんだ。食べることだけじゃなくて、ああでもないこうでもないとか、じゃあこうしようとか、それあかんやん!とか、このワイワイの中にいろんな楽しさが凝縮しているんだよな…、そんなことを感じる空間でした。

ボランティアスタッフと勉強中の子ども。状況に応じて様々な支援を行う

そういえば幼い頃、正月やお盆に親戚が集まった時、まさにこんな雰囲気だったなとふと思いました。多世代が集まって、みんなで同じことをしているわけではないのだけれど、「家」「家族」という同じ一つの空間で、守られている安心感を感じながら時間を過ごしていたなあと思うのです。「ねおほ」で感じたのは、まさにそんな空間でした。

たくさんの人とワイワイ囲む食卓で、笑顔でおいしそうにご飯を食べる子ども

そうこうしている間に、夕飯が完成!みんなで助け合って配膳をして、お待ちかねの「いただきます」。子どもたちもお腹が空いていたのか、一瞬シーンと静まり返ってごはんに夢中になり、その後少し時間を置いて、賑やかさが戻ってきました。

食後はゲームをしたりおしゃべりしたりして過ごして、夜8時には解散。スタッフさんが子どもを自宅へと送り届けます。

「虐待やいじめによる孤立を予防したい」。
活動のきっかけ

さて、ここからは西川さんに、活動について詳しく話を聞きました。

──活動のきっかけは?

「前代表である母は、日本でCAP(Child Assault Prevention、子どもへの暴力防止プログラム)が紹介された際にその一期生としてプログラムを学び、その現場で子どもの声を聞いてきました。地域では保護観察処分を受けた青年たちをフォローする保護司の活動もずっと行っていました。
たくさんの子どもや青年たちと出会う中で、『事件が起きてからではなく、その前の子ども時代に、地域で気軽に関わって悩みや相談を聞いてあげられなかったのか』という思いを抱くようになり、それがこの団体の立ち上げへとつながりました」

「ここはどんな子どもも来ても良い場所ですが、なかには家族の関係や貧困事情など様々な家庭の背景も見え隠れし、居場所がなかったり、不登校になったりする子どももいます。そんな子どもたちにとっては、私たちが彼らの受け皿となっていろんなことに一緒に取り組むことで、本人の孤立や虐待の予防につながればと思います」

「近所の親戚のような存在になれたら」

「ねおほ」の中は、ごくごく普通の家庭にあるような、幸せな風景で溢れていました

──家族や親戚のお兄さんお姉さん、おじいちゃんおばあちゃんと遊んでいるような、子どもとの近い距離感が魅力的だと感じました。

「その都度出てきた問題にあわせてすぐに様々な支援をしているので『何をやっている団体なの?』と聞かれると一言でまとめられないところはあるのですが、近所の親戚みたいな存在になれたらと思っています。

たとえばこれまでには『自宅が散らかってゴミ屋敷のようになっている』という相談を受けて掃除の手伝いに行ったり、親御さんから『先生が言っていることがよく理解できないので、面談に一緒に来て欲しい』と依頼を受けて面談に同席したり、子どもから『見に来て!』と誘われて運動会を見に行って、家族と一緒にシートを広げてお弁当を食べて帰ってくる、なんてこともありました」

「私自身もこの街で子育てをしています。やはり子どもたちには地域を好きでいてもらいたいという思いがあります。『嫌な思い出がある街』『帰りたくない場所』ではなくて、『あんな楽しいことあったなあ』とか『おもろい人居てたなあ』とか、いつかふと思い出してくれたりしたらいいなと思います」

「ちょうど今、世間は夏休みの時期ですが、『何の予定もない』『家に帰っても誰もいないから、ドアを開けるときはいつもしんどい』と漏らす子どももいます。子どもがふっとSOSを出してくれること自体がすごく大きな力。『話してくれてありがとう』ということ、そして何ができるのか、親御さんと話す必要があるならば話をしますし、『逃げられるときは逃げや』、そんな話を子どもとすることもあります」

「直接的に解決に結びつく支援ではないかもしれません。でも『今、困ってるねん』と言える関係性があるということが、子どもにとっても少し楽になるというか、それだけで少し状況が良くなるのではないでしょうか。子どもの声に耳を傾け、親身になって一緒に考えることができる大人が近くにいれば、子どもは自分で立ち直る力を持っています。だからこそ、子どもたちのすぐ近くにある『地域』でサポートしていく必要があるのではないかと思います」

地域で子どもたちを支える活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「西淀川子どもセンター」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×西淀川子どもセンター」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、西淀川子どもセンターの活動資金となります。

「JAMMIN×西淀川子どもセンター」8/19〜8/25までの1週間限定販売のチャリティーTシャツ(税込3400円、700円のチャリティー込)。Tシャツのカラーは全11色、チャリティーアイテムはその他バッグやスウェットも。チャリティーは、西淀川子どもセンターの活動資金となる

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、レコードを車輪にした自転車。レコードには”Freedom”(自由)と”Safe”(安心・安全)の文字を描きました。みんなでごはんを食べる、自分らしく居られる場所がある、温かく見守ってくれる大人がいる…、特別なことではないかもしれないけれど、こういった経験が、まるで音楽のように人生を豊かにし、子どもたちが喜びと希望を持って前へと進む糧になる。そんなメッセージをデザインに込めています。

チャリティーアイテムの販売期間は、8月19日~8月25日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「近くにいるよ」。子どもがしんどいときに孤立しないよう、地域で子どもを支える場と人を〜NPO法人西淀川子どもセンター

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,500万円を突破しました。

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