環境省はSDGsやパリ協定などの世界的な脱炭素化、資源循環の潮流を受けて、「ESG地域金融」の普及へ力を入れている。7月から大阪や高松、静岡など全国6つの地域で、地域の金融機関や自治体などに向けたセミナーを開いている。(オルタナS編集長=池田 真隆)
ESG地域金融とはESG(環境・社会・ガバナンス)要素を考慮して事業者を支援し、地域の持続可能性を図る動き。環境省では、経済成長と社会・環境課題の解決を両輪で進めていくESG地域金融を広めるにあたり、検討会(委員長:竹ケ原啓介・日本政策投資銀行執行役員経営企画部サステナビリティ経営室長)を設立した。
検討会は今年3月、地域金融機関が事業の環境性と社会性を評価する際の参考資料として事例集を作成した。環境省はこの事例集で書かれた内容を広報するために全国を周るキャラバンを行っている。
8月29日には、高松市で開かれた。検討会の委員長を務めた竹ケ原氏らが登壇してESG地域金融のあり方やESG地域金融を実践している地域の金融機関を好事例として紹介した。会場には、金融、自治体、NPO担当者ら100人が集まった。
当日は竹ケ原氏がモデレーターを務め、金井司・三井住友トラスト・ホールディングス チーフ・サステナビリティ・オフィサーと西村治彦・環境省環境経済課長がパネリストとして登壇した。要旨をまとめた。
竹ケ原:地域の金融機関がSDGsやESGに取り組む効果は。
金井:投資家がESGの視点で金融機関を見るときは、ガバナンスやセキュリティ対策(サイバー攻撃など)、プロダクトの安全性などを見る。地銀も銀行もガバナンスやサービスの安全性への対策は「うちはやっている」と思いがちだが、グローバルな視点からすると「やっていない」領域がまだまだ多い。
外から見たときにちゃんとやっているか、自分たちでチェック機能を持つことが重要。社外役員を入れても、日々のオペレーションでやっていることは内輪の論理が大きい。そこを崩すことが、地域金融機関がESGを実践する意義である。
加えて、ビジネス(融資・投資信託など)的な側面での効果も期待できる。金融機関の成長戦略は頭打ち。環境や社会はビジネスの源泉である。社会のニーズは顧客ニーズになる前の段階のニーズだ。顧客ニーズになってからでは一歩遅く、社会のニーズを発見することは成長戦略に直結する。
西村:パリ協定などで脱炭素社会をつくるには、経済・社会の中身そのものが変わらないといけなくなった。経済も社会もよくして、その流れに合わせて環境もよくしていく。そのための概念図として、環境省では地域循環共生圏をつくった。
この曼陀羅は社会全体を表している。各地域ごとに課題もリソースもやりたいことも違うので、地域ごとにこの曼陀羅を参考にして考えてほしい。曼陀羅の作成を通して自分たちの地域を見つめ直してほしい。ニーズに応じて、環境省は支援をしていきたい。
竹ケ原:ありがとうございます。各地域で曼陀羅を描く主体は自治体でしょうか。
西村:自治体とは限らない。金融機関でも高校でも誰でもいい。
竹ケ原:各金融機関は曼陀羅を参考にすることでSWOT分析ができる。これまで地域金融機関と自治体の連携はなかなか上手くいったことがなかったが、ESG地域金融のアプローチはおもしろい。地域における社会課題の解決の潮流になるのではないか?
金井:地域の課題解決の方法は、ESG地域金融を通して自治体と金融機関が連携するしかないと思う。いまサステナブル金融は世界的な潮流になっている。特にヨーロッパは盛んだ。
なぜヨーロッパで金融なのかというと、金融はすべてを見渡せるから。すべての産業・人を見ている産業であり、地域全体を見る機能を持つ産業は地域の金融機関しかない。別の面から同じ機能を持つのが自治体。地域の金融機関と自治体が連携すれば地域課題を解決していく協力なエンジンになる。
さらに金融機関は顧客への影響力も大きい。地域にネガティブな影響を与えている企業には、金融機関が対話をすることでネガティブなことをおさえることができる。ポジティブな面を資金的に伸ばし、ネガティブな面を抑える「サステナブルへの移行支援」が金融機関の大きな役目である。
竹ケ原:売上も利益率も同じ2社があったとする。1社は環境に熱心で、もう1社は法を犯さなければいいという程度、グレーゾーンにも挑む姿勢を持つ。この2社について決算書ベースで、短期的に見たら後者が優れているという評価になるだろう。
しかし、10~20年のスパンで見ると、「何かをやらかす可能性があり」と判断できる。銀行にとっては、ネガティブな側面も見ないと貸し倒れリスクがある。現在、銀行は、事業者の環境・社会的な価値を十分に理解できていない。そこで、自治体や非営利セクターともっと連携することで、その領域(環境や社会)が分かるようになり、リスクの軽減になる・
現在、ヨーロッパでは脱炭素社会へ向けて莫大な投資が繰り返されている。グリーンウォッシュやSDGsウォッシュのリスクを避けたいので、グリーンやサステナブルの基準を定めた。これが「タクソノミ」。
タクソノミについてはかなり厳密な議論をしている様子で本気度がうかがい知れる。タクソノミのように誰が見ても白か黒か判断できる基準ができると、ESG投資は割り切った貸し方になるが、一方で、地域でさまざまな取り組みをしている事業者の可能性に賭けて貸していくべきという考え方もあるのではないか。ESG投資は二元論でよいのか。
金井:タクソノミで掲げている基準は長期的な理想値である。米国などへの対抗としての共創戦略がタクソノミだ。基準を高めに設定して全体を移行させることが狙い。この移行に関して金融機関がお金をつけている。
一方、日本企業は中長期的な大きな理想を掲げることを避け、短期的な目線での経営を優先してしまいがちだ。