ひと昔前のように家族や親戚、地域で子育てをする習慣が減っている今、仕事から離れ、子どもと家を中心にした生活は、母となった女性が社会と関わる機会を失い、彼女たちの孤独や無力感を招くといいます。この問題を解決したいと、地域の子育て参加を促進し、母親も地域も共に豊かになる社会を目指すNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
母親のために、子連れでも気軽に通えるカフェとイベント情報を掲載したサイトを運営
神奈川県横浜市を拠点に活動する認定NPO法人「こまちぷらす」。「子育てが『まちの力』で豊かになる社会」を目指し、孤立した子育てを無くすために、子連れでも気軽に入ることができるカフェ「こまちカフェ」の運営と、情報発信という二本の柱を中心に、6つの事業を行っています。
「小さな子を持つお母さんは、どうしても社会から孤立しがち。社会との接点、人と関わる機会が減り、自己肯定感が低くなる、子育ての大変さを一人で抱えてしまうといった負のサイクルが生まれてしまう」と話すのは、団体副代表の北本若葉(きたもと・わかば)さん(48)。3人の子どもを育てる中で感じた課題や経験を生かし、「孤育て(孤立した子育て)を減らしたい」と精力的に活動しています。
「小さな子を持つお母さんを対象にしたいろいろなサービスが存在していても、特に初めての子育てを始めたばかりのお母さんは、情報にたどり着けずに孤立することがあります。あるいは、山のように情報がありすぎて自分に必要な情報にたどり着けないということもあります」と北本さん。
「図書館や公民館に行けば紙のチラシなどを手にすることができますが、そもそも子どもを連れて外出すること自体ハードルが高い」と課題を指摘します。
「こまちぷらす」では、必要とする母親や家族に的確な情報を届けたいと、インターネット上で地域のイベント情報を検索できるプラットフォームの運営も行っています。
幼い子どもを育てる母親が抱える課題とは
「それまで当たり前のように社会とつながっていた女性が、出産をきっかけに、突然社会と切り離されたような感覚になることがある」と北本さん。
「毎日子どもとだけ過ごす閉鎖的な環境の中で、誰からも必要とされていないと感じ、せっかく子どもを育てるというすばらしい仕事をしているのに『自分って何なんだろう』と落ち込んだり、うつになってしまったりという現状がある。一方で社会としても子どもを歓迎し、温かく見守るような風潮かというと、そうとはいい切れない現実がある」と指摘します。
この現実は、お母さんたちをさらに追い詰めてしまうといいます。
「子育ての大変さ・大切さや母親が抱える悩み・不安が社会に十分に認知されておらず、産前産後のうつや自殺、虐待などの社会課題につながっているのではないでしょうか」
カフェの存在が、が外出や社会とつながるきっかけに
「こまちぷらす」では、小さな子どもを抱えるお母さんが気軽に外に出られる場所をつくりたいと、2012年に横浜市戸塚区に「こまちカフェ」をオープンしました。
「カフェでは卵や小麦・乳製品を使わないメニューを提供しています。平日11時〜午後2時のランチタイムには、地域の方が一人ないし二人、子どもを見守ってくれます。見守りの方がいるので、お母さんもゆっくり自分の時間を過ごし、リフレッシュすることができます」
「誰でも気軽に入っていただけますが、近隣では『赤ちゃん連れで行きやすい』と評判で、幼稚園に通う前のお子さんを連れたお母さん方が多く訪れてくださいます。こういった場所があることが、お母さんたちの『外に出てみよう』『出かけてみよう』という外出動機にもつながり、『孤育て』の防止につなげることもできると考えています」
さらにカフェの中に、ヨガや趣味のワークショップ、セミナーや座談会などが開催できるレンタルスペースを設け、母親が集まる場として提供しているほか、手作りの雑貨類を販売するマルシェコーナーを設置し、「母親が興味のある分野やスキルを活かして社会とつながり、ステップアップできるきっかけの場」づくりにも力を入れています。
母親だけでなく、地域へもアプローチ
「お母さんの居場所だけをつくるのではなく、結局は社会の理解を得ていかなければ、子育ては孤立したままです。子育ての環境をよりよくしていくためには、各家庭の子育て、そして社会の中での子育て、その両方にアプローチしていく必要がある」と北本さん。
「こまちぷらす」が企業と協働で実施している、赤ちゃんが生まれた家庭に出産祝いのプレゼントを届ける「ウェルカムベビープロジェクト」では、プレゼントの中に地域の方がひと針ひと針丁寧に心を込めた手縫いの「背守り(幼児のお守り)」や手紙を同梱したり、プレゼントの梱包作業を地域の学生や親子ボランティアと共に行ったりすることで「一つの家庭に生まれた赤ちゃんを、企業や地域、皆で祝い、見守る」風土を生むきっかけになっているといいます。
「出産祝いのプレゼントを受け取った母親が『子どもの誕生を皆で喜んでくれているんだ』と感じられるだけでなく、このプロジェクトを通じ、企業の方たちやボランティアで参加してくださる方たちも子育てに間接的に関わることになり、直接子育てに関わっていない層の方たちの意識も自然とそちらに向いていく。子育てへの興味やつながり、新たなアイデアが生まれるきっかけにもなります」
10年経っても変わっていなかった、
子育てを取り巻く現状
23歳の長女、22歳の長男、13歳の次男、3人のお子さんの母である北本さん。仕事を辞めて25歳で長女を出産した時、幼い子どもと自宅で二人きり、外出は買い物だけという生活に「社会から切り離されてしまった感じがして、『自分は何のために存在するんだろう』と感じた」といいます。
10年後、次男を出産。その際におむつや抱っこひも、ベビーカーなど子育てにまつわるモノやサービスは劇的に進化しているのに、子育てする母親を取り巻く環境が何も変わっていないことに危機感を抱いたといいます。
「世間は少子化問題が取り沙汰されていますが、子育てするお母さんを支えるような環境が整っておらず、インターネットで調べても情報がたくさんあるわけでもなく、10年前と同じ『子育てが楽しくない』と感じてしまう環境があると感じました。『自分が動かないと何も変わらないかもしれない』と感じ、自分に何ができるのか模索する中で、現在の活動をするようになりました」
現在は、一番下の息子さんも13歳。「活動へのモチベーションは?」と尋ねてみると、「一番あるのは、『自分の子どもたちが子育てをする時に自分と同じ状況を味わわせたくない』という思いでしょうか」とい笑顔で答えてくださいました。
子育てにおける「地域の役割」とは
「子育てで孤独を感じていた時、『お子さん何ヶ月?』とか『かわいいね』という風に声をかけてもらったら、それだけで嬉しかった」と振り返る北本さん。「些細なことかもしれないが、こんな小さなつながりをつくっていくことが地域の役割なのではないか」と話します。
「何でもない自分の気持ちを言える人が近くにいること。子育てや子どもに理解を示してくれる人や場所があること。子どもと二人きりで社会から切り離されてしまったように感じているお母さんが『ここに居てもいいんだ』と満たされ、自分を解放できる場をつくっていくことが大切だと思っています」
「そしてそれはきっと、社会の力にもなっていくと思うのです。『こまちカフェ』を拠点にたくさんのお母さんとつながりができました。そうすると子育て以外にも、介護であったり病気であったり、いろんな声が聞こえてきます。こういったこと一つひとつをとっても、気持ちを話せる場所がある、話せる人が一人でもいるだけで、人も地域も大きく変わるのではないでしょうか」
孤立した子育てを無くすための活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「こまちぷらす」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×こまちぷらす」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、孤立した母親や家族を支援し、社会とつながるきっかけをつくるための様々な活動資金として使われます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、コーヒーの枝と、そこに実る果実。「こまちぷらす」の活動を通じ、関わりの中で可能性を広げていく母親たちの姿を表現しました。モチーフのコーヒーには、「コーヒーを飲んでくつろぐように、小さな子どもが居てもリラックスできる場所を」という思いも込められています。
チャリティーアイテムの販売期間は、9月9日~9月15日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・地域の子育て参加が、お母さんだけでなく、人と「まち」とを豊かにする〜NPO法人こまちぷらす
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,500万円を突破しました。
【JAMMIN】
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