――「なにわら納豆」が生まれた経緯は。
吉田:『なにわら納豆』は、私が会社を引き継いでから開発し、今では自社の看板商品になりました。藁に自生する天然の納豆菌を用い、父の時代 の製法で作られています。
構想から発売までに2年程かかり、10種類以上ある商品のなかでも一番苦労しました。父から藁を使った製法を受け継いでいなかったため、最初は豆に糸を引かせることすらできませんでした。
製造担当の従業員と知識を持ち寄りながらなんとか豆を納豆にすることに成功しましたが、菌検査で陽性が出てしまい、市場に出せませんでした。 失敗しては立ち戻り、少しずつ前進することでようやく 商品化に成功しました。完成した時はホッとしましたが、その反面『これからどうやって売り出していこうか』という不安もありました。
――販売を始めてからの反応は。
吉田:すぐに大きな反応はありませんでしたが『藁の納豆を作っている会社ですか』との問い合わせが徐々に増え始めました。召し上がったお客様からは『今までに食べたことがない程おいしい』『やっとめぐり合えた味だ』などのご意見を頂けるようになり、今では自社を代表する商品になりました。なにわら納豆発売前と比べて、発売翌年は10%、現在では40%も会社全体の売り上げが増加しました。
――初代と比べて変わったところはありますか。
吉田:父の時代は卸販売のみでしたが 、自社商品を手に取るお客様の顔を見たい、声を聞きたいとの理由から、工場や百貨店等で直売を始めました。さらに『納豆を通して日本の食文化を豊かにいたします』『美味しさの感動を提供し続ける企業を目指します』『働く喜び・誇りを共有し合います』という企業理念も新たに作成しました。
迷った時に立ち戻れる、会社の『芯』が必要だと考えたからです。 試食販売で納豆を食べたお客様が、嬉しそうな顔をしているのを見る度に『納豆を通して、一人でも多くの人々に美味しさの感動を届けることが、私たちの使命だ』 と強く感じています。
――経営者として、今後の抱負を。
吉田:障がい者施設からの依頼がきっかけで、障害のある女性従業員を雇うことになりました。真面目にこつこつと、丁寧に仕事をする彼女の働きぶりに心を動かされ『立場や境遇に関わらず、真面目に仕事をすれば安心して働き続けられる会社にしたい』と思うようになりました。
自社の納豆作りは、男性よりも女性に向いています。お客様の約7割が女性であることから、商品作りにも女性の目線が必要になります。製造の際にも、女性ならではの細やかな気配りが生きてきます。女性や社会進出がなかなか難しい障害者の人々が、自立する術を身につけられる環境作りを目指していきたいと考えています。