参加学生は、「それだけの良い空間を提供していただけるありがたいお話でした」と話した。
交流展自体は約15年前からスタートしているが、キャンパスを出たのは今回が初。
「今まではOBや学生の仲間、画廊など、内輪の集まる展覧会だった。しかし、知らない人や、自分とは接点のないサラリーマンの人等、今まで会ったことのない客層とのふれあいが今回のテーマの一つでもある」と、猪俣さん。
「学生はおとなしいです。アピールしたいけれど、表現がまだまだうまくできない。でもお客さんが来たら、ドアを開けるなどということから、少しずつ学んで来ています」と話す。
学生も、「一般の人に見てもらう機会は普段あまりないので、技術的なことを知らないお客さんの反応はとても新鮮です。こんなに良い空間で普段展示できる機会も少ないので、幸せです」と話す。
学生から多く聞かれたのは、「アーティストは孤独との戦い」というフレーズ。その孤独を打ち破る良いきっかけとなったようだ。
ハードルを一つ越え、集まった学生たちは、自らこの日の交流会を企画しただけでなく、お手製の箸袋を用意したり、お客様との交流としてくじ引きを用意したりと、自主的により良いものを創り上げていく工夫を実践していた。こうした企画は猪俣さんも当日知ったそうだ。
ある学生は、「壁に文字を書きたい」と言いはじめ、2,3日にかけて、何をやりたいのか、その意図を伊藤忠商事の社員にプレゼンテーションし、説得したという。
無料似顔絵コーナーも、学生が「やりたい」と言い出した企画だ。
■CSR担当者、企業としての「挑戦」
交流展のポスターは、世界で一枚の手作りポスターとして、印刷後、1枚1枚、参加学生がひと手間加え、全て異なるポスターになっている。その中で、伊藤忠商事の企業理念、「Committed to the Global Good」の「Good」 を消して、「Art」としたものがあった。
猪俣さんは、「これは、伊藤忠商事にとってかなりの「挑戦」でした。企業理念をこのように書き換えることを上司が認めてくれるか不安でしたが、私はすごく良いアイディアだと思いました。美大生らしい、いたずらする野心、挑戦する意欲を応援したいと思いました。上司に恐る恐る聞いてみたら、あっさり『おもしろいね』と言ってくれて、その後押しで、私もやっていいんだと思えました。会社が企画を受け入れてくれて、会社もアートスクエアを色んな形で試させてくれているんだなと思いました」と話す。
前回のイベント、「ねむの木のこどもたちとまり子美術展」は、宮城まり子さんというビッグネームのあるイベントだった。今回はネームバリューの全くない、言わば真逆のイベントの開催に、猪俣さんも不安があったようだ。それを一気に取り払うかのように、会社と上司が共に、「挑戦」をしてくれたのだ。
■取材後記
交流会のフィナーレの挨拶で涙ぐまれる猪俣さん。学生と伊藤忠商事の社員が一丸となって創り上げた企画であることを象徴していた。
以前私が書いた記事、「CSR元年から10年 CSRのミッションは最終的にCSR部をなくすこと?」の中で、「ESR(Employee Social Responsibility:社員の社会的責任)の集合体がCSR」と紹介した。
それを正に実践している企業ではないだろうか。個人個人の「想い」を形にする「挑戦」の場を与えること。こうした活動が各社から飛び出してくることに期待したい。
交流展自体の会期はまだ1カ月残っており、今後もイベントを開催する予定だ。毎日学生がお客様のご来場を楽しみにしている。日々変化する作品も何点かあり、その時にしかない出逢いが溢れている。今後の盛り上がりに注目だ。(オルタナS編集部員=山田衣音子)
■交流展概要
社会CONNECT美大生 五美術大学交流展
参加大学:女子美術大学、多摩美術大学、東京造形大学、日本大学藝術学部、武蔵野美術大学
主催:学生団体 五美術大学交流
共催:伊藤忠商事株式会社
協力:青山商店会連合会
会期:2013年1月18日(金)~2月23日(土) 計37日 (会期中無休)
時間:午前11:00~午後7:00
入場料:無料
アクセス:http://www.itochu-artsquare.jp/access/index.html
・東京メトロ 銀座線『外苑前』駅 出口 4a より 徒歩2分
・東京メトロ 銀座線・半蔵門線・都営地下鉄 大江戸線『青山一丁目』駅 出口 1(北青山方面) より徒歩5分
◇ 有料駐車場あり
参考記事:
伊藤忠商事アートスクエアについてはこちら。
その他伊藤忠商事のCSRへの取り組み
子どもの表現力を課題解決へ 伊藤忠商事CSRリアルスペースの原点とは
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