数多くの賞を受賞するねぶた師の父を持ちながら、父・隆さんの仕事場に通うこともなく、ねぶた師になりたいと思ったこともなかったという麻子さん。しかし、5年前、隆さんの作ったねぶたを見て、ねぶた師になることを決意した。

「ただ、ねぶたが格好良いというだけではなく、60になるかならないかの父が、新しいものに挑戦し、斬新なものを作るという、ねぶた師としての精神に感銘を受けました。また、ここまで父が何十年もかけて築き上げてきた技術や伝統を、父の代で終わらせるわけにはいかないなと思ったんです」と、芸術系のバックグラウンドも無い中で、突然ねぶた師になりたいと思ったその時を、振り返る。

「男の世界」に飛び込み、女性として悔しい思いをしながらもデビューのチャンスをつかむ

しかし、すぐに隆さんに弟子入りを申し込むことは無かったという。隆さんが常々「女性にはねぶたはできない」と言っていたからだ。

それには二つの理由がある。一つには、ねぶたには荒々しく男性的な表現が求められること、またもう一つには、制作過程で骨組みを作る、釘を打つなど大工的な作業が多いため、女性には難しいと思われたからだ。

真正面から弟子入りを申し込んでも、断られることが分かっていた麻子さんは、認めてもらえるよう、作戦を練る。まず、最初の1年は下絵を描いて見せたり、休みの日に、隆さんの仕事場に通ったりと、自分のやる気を見せると同時に、少しずつ、自分の存在に慣れさせていった。

しかし、小屋に通っても、最初は隆さんもスタッフも受け入れてくれない。男性スタッフには指示が出るのに、麻子さんには声がかからない。「私が父の息子だったら、みんな喜んで指導してくれたのだと思いますが。悔しい思いも沢山しました」。

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