映画「HOMESICK」ではさとり世代の若者が描かれる

――『HOMESICK』の主人公は、職を失い何事にもやる気が出ない日々を過ごします。しかし、子どもたちと遊ぶことを通して、やる気のスイッチが入る瞬間があります。さとり世代の若者はどのようにしてスイッチが入るとお考えでしょうか。

西田:スイッチが入る瞬間は人それぞれにあると思うので一概には言えません。ですが、「スイッチが入らない理由」はよく分かります。どこに向けて、スイッチを入れていいのか分からないということです。

昔のように、世間から「いい会社」と言われているところに入ったら安心という時代ではないので、何をがんばればいいのか分からない。たとえば映画では、世界を放浪している主人公の妹が出てきます。よく言われる「グローバル人材」のメタファーだと思います。しかし重要な点は、本作の妹はまったく幸せそうではありません。

定期的に家に手紙を送ることからもそう感じました。本当に充実した海外生活を送れていたら、定期的に家に手紙なんてことはまずないでしょう。

今の若年世代は、「グローバル人材になれ」と半ば脅迫的に言われています。しかし、グローバル人材になったら、激烈な競争に巻き込まれてしまうことは目に見えています。しかも勝ち残れるかはわからない。グローバル人材になって、何かいいことがあるのでしょうか。それすら分からないなかで、「グローバル人材になれ」と言われているわけです。

また現実に海外経験を積むにはお金がかかります。昨今の不況で、学生への仕送りは過去最低です。では、グローバル人材となるために、海外に行くためのお金はどこから捻出するのでしょうか。社会は、特定の方向に向かえと要請しますが、その方法は見えず、しかもそこにいっても幸せになれなさそうに見えるのは、映画からも伝わってきます。スイッチが入るわけがありませんね。

――何がしたいのか分からない。やりたいことが見つかったところで、幸せになれるか分からない。ロールモデルが見つかりにくいので、若者たちもさまよってしまうのですね。

西田:どこに向けてがんばればいいのか分からず、頑張ってもよりよくなるようには思えないことがあります。昭和モデルを超克をしても、幸せはなかったということがあるかと思います。

しかし、他方ぼくらは昭和の遺産で生きていることもまた事実です。昭和や過去の時代の遺産に頼っているのです。

■世代で区切る議論は辞めるべき

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