――社会学者の古市憲寿さんは、「若者はリアリティが欠けたからボランティアをする。結果、自分探しにつながる」とおっしゃっていました。

西田:リアリティもそうですが、「手応え」や「手触り」でしょうかね。NPOで働くことは楽ではありません。「自分探し」ではとても続かないでしょう。セクションごとに分かれていないので、何でもやらなくてはいけないし、残念ながら現時点では給料も総じて低いです。

しかし、エンドユーザーの顔が見える仕事なので、やりがいや手触りは、大企業に比べて感じやすいでしょう。自分が提供しているサービスは何で、顧客は誰なのか、こうした全体像が把握できるNPOやベンチャーのような職場が、それらが実感として見えにくい大企業と比較して、ときに魅力的に見えているのではないでしょうか。

――若者が抱える深刻な問題はどのようなことだと思いますか。

西田:「若者」という概念を用いることで、高齢者などの先行者と比較されます。ぼくは、幸せか不幸せか、あるいは損得を世代で比較してももはやしょうがないし、解決策もないのではないかと考えています。

昔は経済的には豊かだったけど、均一の大量生産による商品しかなく、精神的には満足していなかったのかもしれないし、今の世代は経済的には苦しいけど、色々な商品やサービスを楽しむことができます。

どの世代にも、よい点と悪い点があるということを理解すべきです。冒頭にも、個々人が多様な価値観をもち、多様な欲望をもち、多様な消費を行う社会になったのかもしれないという話がありましたが、だとすれば、なおさら「若者」「年長世代」という概念が無意味になりつつあるのかもしれません。

「若者の世代は損している」という主張は世代間の対立を煽るだけで、結果的に若年世代の問題にも幅広い共感を得られない可能性がある。貧困層は、高齢者にも、若者にもあります。富裕層もそうですね。若年者であれ、高齢者であれ、現時点において問題に直面している人を救う、その方法論を考えることが重要ではないでしょうか。

西田亮介
1983年生。社会学者。立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員。東洋大学、学習院大学、デジタルハリウッド大学大学院などで非常勤講師。専門は、公共政策、情報社会論。著書には、『ネット選挙 解禁でもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)がある

『ネット選挙 解禁でもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)
『HOMESICK』

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