3月11日、武士雄飛さん(当時 日本大学芸術学部4年・22)はネパールにいた。一瞬で色あせた旅に終わりを告げ、日本に戻った。そして、彼は自転車に乗り仙台へと向かった。理由は、仙台にいる従兄弟たちに元気を届けたいからだ。

交通手段に自転車を選んだ理由は、ガソリンを使いたくないからである。どこまで被災地で力になれるのか、ガソリンを消費してまで行く意味はあるのか、考えたらキリがなくなってきて、気が付いたら寝袋と食料を持って自転車に乗っていたという。

地割れにはまり、転倒!―見ず知らずの人から助けが

茨城も抜けていわきに入ったとき、雨の降る夜の暗い中、自転車を走らせていた。道路はまだ修繕されていないところも多く、地割れだらけだ。雨宿りはできず、ただ前に進むしかなかった。

走っていると突然、武士さんの体は前方に投げ出された。自転車が地割れに突き刺さったのだ。休んでいる暇はないと自分に言い聞かせ、地面に打ち付けられた痛みを抱えたまま、大きくフレームの曲がった自転車を手で押しながら再び前に進んだ。

なんとかコンビニまで辿り着き、そこで雨宿りをした。そこで、twitterで転んだことや自転車が壊れたことをいわきのハッシュタグを付けて書き込んだ。すると、ひっきりなしにいわきの人から返信がきたという。

「大丈夫ですか?」「雨に濡れていないですか?」いわきに友達や知り合いは一人もいないので、もちろん全員知らない人からだ。心配する言葉や、東京から自転車で来てくれたことに感謝する返信も多かった。「雨に濡れた冷たい体で、あたたかいコトバに触れて涙が出そうだった」と武士さんは振り返る。

コンビニで雨宿りをしていると、一人のおじさんが車から彼の名前を呼んだ。返事をすると車から降りて来て、ビニール袋を彼に手渡した。中身はヘッドランプと飲み物や食べ物だった。「東京からありがとう、これをもらってくれ」とだけ言って、彼に断る間も与えずポケットに1000円札をねじ込み、その場を去って行ったという。

Twitterから駆け付けて自転車の修理も

翌朝、起きると昨日のおじさんと2人の女性が彼を迎えに来ていた。「自転車を直しに行こう」と言ったのだ。3人とも元々知り合いではなく、昨夜の彼のツイートを見てかけつけてくれたメンバーだった「元気を届けるはずが、仙台に行く途中にも僕がたくさんの親切を受けた。コトバにできない想いを、ありがとうのひと言に詰めて全身全霊で感謝した」と武士さんは話す。

被災地出身で東京在住者のジレンマ

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