田辺農園の使命は、より安心・安全な食べ物を世の中に提供すること。食料自給率の低下から輸入作物に頼らざるを得ない日本にとっては、「食の安全」は避けては通れない問題だ。一人の生産者としての考えを、田邊さんはこう語る。

「田辺農園では『自然な形で作るバナナ』にこだわっています。食の安全は、バナナ栽培を始めた当初から意識してきましたが、生産者にとって必要なのはバランス感覚だと考えています。バナナだけにフォーカスを当てても、現在の需要量に応じた生産量を維持するには、無農薬栽培のみでやっていけるような時代でもありません。生産者としては、生産量を上げて利益を出し、競争に生き残っていくことも必要なことです。もちろん残留農薬が出るといったことは論外ですが、生産効率を考えれば農薬などに頼ることは致し方ないことです。その矛盾とどう向き合い、農薬などの使用量をコントロールしていくのか。自分たちがどの範囲まで実行できるのかという節度を、強く持っておくということが生産者に求められているのではないでしょうか」

■変わるべき消費者

スーパーに並ぶ均一化された「色・大きさ・形」の食べ物。見た目の美しさを極端に気にする日本市場に呼応するように、大量の農薬や薬品が使用される結果となった。流通の利便性という側面もあるが、やはり消費者がそれを過剰に求めているからこそ生まれた状況だ。自然循環型の農業に取り組み始めた生産者たちの想いを、私たち消費者も受け止める必要があるのではないだろうか。

「人間に個人差があるように、農作物に個体差があることは至極当然のことなんです。自然に育ったバナナを観察すると、茎の上の方は実が大きく、下の方は小さくなっています。それが自然なバナナなのですが、日本市場では、ちょうどいい大きさの茎の真ん中部分しか受け入れられないということが起こっています。そうすると、本来自然に行われるはずの生産が、いびつになってくる。もちろん全てではありませんが、『いいところどり』だけをする、それが農業のあるべき姿なのかという疑問は常に持っています」と、田邊さんは危機感を抱く。

バナナだけに限らずあらゆる食べ物に均一性を求めるのは、いわば人間のエゴである。日本の発展を支えてきた要因の一つは、消費者の厳しい目といって過言ではないが、いまこそ私たち消費者も意識や消費傾向を変えていかなければならない。消費者自身が変わることが、しいては日本の農業を守るということに繋がるのではないだろうか。

・田辺農園
http://www.jff.co.jp/tanabe_farm/

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