無事に少年は輸血も成功し、手術も終わった。術後、少年は私に笑顔で話掛けてくれた。ところで、けが人を手術する場合、皮膚の中に砂や破片が入り込んでいる事が多い。なので、まず行わなければならない事が、負傷した箇所を奇麗に洗う作業だ。

数カ月前には、消毒された水不足が深刻で、水道水で洗うしか無かったという。そして、医療器具不足の問題も大きい。骨折をしても、骨を支える器具すら無い。そのため、現場の医師は鉄を購入し、自らの手で器具を作り、代用していた。

手製の器具で治療を受ける足 写真:吉田尚弘

これが、シリアの医療現場だ。現場の状況は、最悪とまでは言わないが、かなり良く無い状況だった。

■我々日本人の役割は

シリアでこの様な悲惨な現状が続いているのにも関わらず、多くの日本人はシリアの内戦の事を知らないし、そもそもシリアの場所さえも知らない人も多い。

これは、国際社会で生きる中で大きな問題だろう。なぜなら、他国は毎日の様にシリア内戦のニュースを耳にする事ができるし、シリアの平和を願うイベントも多い。私が取材したとき、ある医師が私に「なぜ、日本は何もしてくれないんだ。今のシリアを救えるには、日本じゃないのか」と言った。彼の言いたかったのは、他国の場合に、宗教という大きなキーワードが内戦そのものを操作してしまう。

その中で、日本の様に中立的な立場で物事を動かせる国は他には無いという意味だ。私も、それには賛成だ。だが、残念な事に今の日本はシリア内戦を動かす以前に、シリアの事を知るという事から始めなくてはならないだろう。

だが、それは今後シリア内戦を見ていく中で、平和へと向かっていく中で最も重要な事ではないだろうか。私は、強く願いたい事がある。

シリアは遠い存在の国ではない。現場に行けば、我々と同じ姿をした人間が現地で生活をしているのだ。一、人間として見殺しにするのはいかがなものなのか。今一度、シリアの内戦について考えてほしい。


 

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